6 耐火ボード
【争点】
消防士渡邉証人は自身が中心となって作成した火災報告書において、天井の耐火ボードにこぶし大の局所的な炭化部分は、火災における堆積物が燻燃する事によって同現象が起きたと結論づけていた。ところが検察審査会が不起訴不当の決議を受けて検察が追加で捜査を行ったとしているが、この消防士を検察庁に呼び再度聴取をした際に、同消防士は自らが作成した火災報告書の局所的な炭化部分の結論付けに疑念を抱き、同報告書作成後に訓練棟で実験を行った結果、アルコール系着火剤で30分、ガスバーナーで10分程度天井ボードを加熱した後に水をかけたら簡単に穴が開いたと証言をするに至った。しかも火災報告書では火災熱によるものとしていた局所的な炭化は突如人為的によるものだと証言を変節させたのである。
然しながら既に科捜研の実験ではいかなる物質、方法においても火災現場と同じような炭化や穴が空くといった再現には至っていないことからも、渡邉証言は著しく著しく信憑性が低いばかりか、最後まで訓練棟で行ったとされる実験記録は開示されなかった。
ところが裁判所は同証人の裏付けのない矛盾だらけの証言を全て採用したのである。
そこで我々は渡邉証人が行ったとされる実験を再現してみた。結果は言うまでもない。科捜研と全く同じであり、火災熱で天井ボードが局所的に炭化をして、そこに水をかけると脆く穴が空くことも我々の延焼実証で既に証明されている。
消防士渡邉証人は自ら作成した報告書ではなく、検察官の意向に沿うような証言をする必要がどこにあるのか?裏取引があったのではないかと強い疑念を抱かざるを得ない。
各種助燃剤による天井ボードを燃焼させる耐火実証
【実証の趣旨】
渡邉消防士証人が一審公判廷に於いて本件火災の火元は105号室天井裏、天井ボードにこぶし大で炭化、脱落した穴は人為的な加熱と結論づけた。
その根拠は同証人証言調書の記載のとおりであり、火災報告書作成後に小千谷消防本部訓練等内で行ったとされる独自の実験の結果によるものとされた証言に基づき、裁判所もこれを事実認定した。
同証人が行ったとする実験を同じ条件下で再現をして、その証言内容の疑義を確かめる。
【実証主体者】
・波多野現
(所在地:新潟県長岡市川口牛ヶ島2575-1)
【証言再現の状況】
・再現セット
吉野石膏製準不燃耐火ボード(厚さ9.5mm)をブロックにより支え、表面および裏面の変化を観察記録する。
【実験時の諸条件】
実験開始日時 平成28年7月3日 午後12時34分
気象状況 曇り 室温26℃、湿度78%
【助燃材の種類】
1、 テムポ化学製「着火剤(ペーストパック)」
・主成分 メタノール
・内容量 20g×10パック 計200g
2、 テムポ化学製「着火燃W」
・主成分 メタノール
・内容量 250g
3、 新富士バーナー製「業務用パワーガス・プロ」(型式RZ-860)
・主成分 有臭LPG(液化プロパン、液化ブタン)
【実験撮影方法】
実験開始とともに定点観測用カメラ1台で動画を撮影、記録。
同時にもう1台のデジカメで実験の状況経緯写真を撮影、記録。
①吉野石膏製ボード耐火実証
【実証1】各助燃剤による耐火ボードへの燃焼とその変化の実験
1、 従前の吉野石膏製純不燃材耐火ボード上にテムポ化学製「着火剤(ペーストパック)」置く。
2、 同様に同耐火ボード上にテムポ化学製「着火燃W」置く。
3、 パック式着火剤にチャッカマンタイプのライターで点火。
4、 1分後、ジェル式着火剤も同様に点火。先に添加したパック式着火剤全体に火が回る。
5、 ジェル式着火剤点火から2分30秒の間隔をあけてガスバーナーによる耐火ボードへの加熱燃焼を開始。
6、 ガスバーナーによる耐火ボードへの燃焼を10分経過したところで終了する。これは渡邉証言に基づくもので、同証言によればガスバーナーの燃焼を10分程度行えば、耐火ボードの炭化や水をかけて簡単に穴が開くという内容を精査するためである。
7、 パック式着火剤点火から19分後、同着火剤の周りに焼けが認められるものの、着火剤直下の耐火ボード表面にほとんど焼けが認められないことを確認する。
8、 ジェル式着火剤点火から約30分、自然鎮火を確認。
9、 パック式着火剤点火から32分15秒、自然鎮火を確認。
10、各助燃剤を燃焼し焼けが認められる耐火ボード表面の様子を観察、写真撮影で記録する。
11、同様に耐火ボード裏面の状態を観察、写真撮影で記録する。
12、パック式及びジェル式着火剤の燃焼した耐火ボード表面には黒い焼けが認められる。燃焼部分はより白く、炭化深度が進んでいることが認められる。
13、耐火ボード裏面の状態はパック式及びジェル式着火剤の燃焼による影響は認められない。ガスバーナーによる燃焼部分については軽微な黒い焼けが認められる。
②吉野石膏製ボード耐水実証
【実証2】各助燃剤による耐火ボードへの燃焼後、焼損部の耐水実験
1、 実証1終了後の耐火ボードを用いる。
2、 3種類の助燃剤により加熱焼損した部分に水道水をまく。
3、 耐火ボード表面及び裏面の状態を観察、写真撮影で記録する。
4、 水道水をまいた3箇所の焼損部の残焼物を取り除き、それぞれ手で押して穴が開くなどの状況になるかを観察、写真撮影で記録する。
5、 実験の結果、どの焼損部分においても助燃剤による加熱や水などによる影響で、本家現場のように円形の脱落や穴があくというような状態は認められなかった。
【実証結果のまとめ】
3種類の助燃剤により耐火ボードを加熱し、炭化及び耐水性を確認したが、どの方法でも焼けや炭化の焼損は認められるものの、同所で耐火ボードが脱落したり穴が開くといった状況にはなりえない事が判明した。
【総括】
渡邊証言で明らかとなった小千谷消防本部訓練棟内で行われたとする天井ボードの耐火性、耐水性の実験を再現する実証を行ったところ、同証人の証言内容のような状況は認められなかった。
火災現場で確認された楕円状に強い炭化や鑑識中に脱落して穴があいてしまった天井部同所は同証人が火災報告書に記載した、焼けたバスシステム関連機器や木片が長時間燻燃したことによる現象である事以外整合性が認められないと推認される。
また同時に警察、消防、他の鑑定機関においても、火災現場を忠実に再現しての立証を行ったところはどこもなく、捜査、調査の過程で憶測や推測に思考を縛られ、事実に目を背けてしまった事を容易に事実認定した裁判所の過失は非常に重いと言わざるを得ない。
さらには公判中一度も開示されることのなかった渡邊消防士が訓練棟で行ったとされる実験記録の情報公開を求めたが、何故か記録は存在しないという回答であった。そんな都合の良い話があるのだろうか?