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4 延焼再現

【争点】
 裁判所は消防士渡邉証人の証言に重きをおき、火元は105号室敷梁北側、浴室関連機器付近からの出火を否定する事実認定を元に判決を導いた。
 これまで我々が積み重ねてきた実証により敷梁はその質量からも、そこを火元として延焼火災に発生することは不可能であると証明されている。ということは次に疑うべきは焼けが著しい浴室関連機器からの出火となる訳だが、渡邉証人は電気火災の可能性の否定、そして同所が火元となった場合、炎は上部に延焼する性質がある事から、その直下の敷梁が激しく焼損していることの整合性が説明できないとして同所からの出火の可能性を強く否定している。
​ 然しながら敷梁が火元としてなり得ないことから、浴室関連機器でのトラッキング現象を起因とした火災が発生しないのか?また仮に火災に発生した場合、渡邉証言のように延焼経路に整合性がないのかを実証をもって証明する。

1級建築士監修意見書

​小千谷消防火災報告書添付現場図面

1級建築士監修意実験棟図面

火災現場再現燃焼実証

【条件】
・再現セット:火災報告書添付図面に基づき素材、寸法、電源ボックス等を忠実に配置
・電源ボックスへは交流100Vを通電、待機電力状態。

10:45~10:51 実証準備(実証セット・機材・素材等写真撮影)
10:51.30 20%濃度アンモニア水溶液を基盤ソケット部分に注水
(しかし外部分岐ブレーカーがオフ状態のため通電されていない)
(外部分岐ブレーカーをオン状態にして待機電力状態を確認する)
10:52.37 20%濃度アンモニア水溶液を基盤ソケット部分に注水 
10:52.50 基盤ソケット部がトラッキング現象により発煙(酸素供給を制限するため一旦ボックス蓋を閉じる)
10:53.00 発煙確認10秒後にボックス内を確認、トラッキング現象による発煙は継続
10:54.15 発煙が強くなり同部分から出火を確認
10:57.05 小模な破裂音が発生
10:57.23 電源ボックス樹脂の一部が燃焼の熱により溶け、下部天井ボードに落下。落下後も溶けた樹脂は延焼を継続。
10:58.50 燃え溶けた火元の電源ボックスのほとんどが敷梁付近の天井ボード上で激しく燃え盛る
10:59.00 落下する前に電源ボックスが取り付けられていた基台(合板パネル)は取り付けビスに付着した樹脂が一部燃え残る程度で、同基台そのものは黒く煤けてはいるもののそれ自体は燃焼をしていないことが確認される。但し下部で燃え盛る溶け落ちた電源ボックスの炎は上部基台及び敷梁側面を継続的に加熱し続けている。また燃え続ける電源ボックスの炎は基台に沿うように同基台上部取り付け柱を大きく超える高さまで及び、天井野地板の位置にまで達している事も確認される。
10:59.26 CH.3(背面カメラ)の映像記録より基台は炎に炙り続けられてはいるが、同基台そのものが延焼してる事はこの時点では無いことが確信される。
11:00.00 CH.2(天井ボード裏側カメラ)で天井ボード裏面に膨らみが徐々に大きく広がることを確認。
11:00.22 電源コードを伝い火元電源ボックス右に位置する別の電源ボックスに炎が及ぶことが確認される。
11:00.45 2番目に燃え始めた真ん中に位置する電源ボックスの一部が熱により変形、下部へ落下し始める。(この段階でも基台合板パネル自体の燃焼は確認できず)
11:01.33 真ん中の電源ボックスも下部天井ボード上に完全に落下する。(向かって左の落した電源ボックス及び真ん中の電源ボックスが敷梁側面を激しく加熱しながら立ち上がった炎が上部合板パネルへ延焼を始める)
11:02.00 向かって一番右側の電源ボックスにも配線を伝って炎が及ぶが、素材が金属のためこれ以上の延焼には発展しない。
11:02.30 基台合板パネル下側が燃え始める。
11:03.15 天井ボード上で燃え続けている2台の電源ボックスが敷梁側面を継続的に加熱しながら上方へ炎が燃え広がることにより、基台上部が固定されている横柱への延焼が始まる。
11:05.05 基台合板パネルの一部が燃え落ち始める。
11:15.00 落下延焼していた電源ボックスの樹脂部分がほぼ燃え切り、下火になっていく様子が伺える。それと同時に敷梁側面の強い炭化も確認できる。
11:18.58 全アングルのカメラ画像から火が見えなくなり自然鎮火を確認。しかし残燃物はその後もくすぶり続け一部は赤く光っている部分もあり、その中心部はかなり高温状態を維持していると伺える。これにより残燃物直下の天井ボード裏面に強い焼けが現れ、徐々にその度合いが進む様子も記録される。
11:27.09 火災発生当時と同じように残燃物中心部で高温を維持している部分を中心に水道水による消火を開始する。
11:28:00 しかし残燃物中心部の温度が下がらず高温を維持し続けていたことから、事件当時初期消火に当たった当該施設従業員の供述にあった洗面器で水をかけた状況に近い量の水道水で消化を継続する。
11:28.15 天井ボード裏面の膨らみが下方向に動く様子が伺える。
11:28.39 さらに水道水による消火を進めると、天井ボード裏面の膨らみの進み具合がさらに顕著となる。
11:30.08 天井ボード上の残燃物を取り除くため樹脂製のドライバーの柄の部分で撫でるように取り払うと、11:30.12天井ボードは焼損と消火に使った水道水により脆くなり一部が落下、こぶし大の穴が開く。
 

火災現場再現燃焼実証(ムービー映像)

※少々音がうるさいですが、これは撮影機及びウェルランド製コントロールボックス及び撮影機材に電源供給するための発電機の音になります。

火災現場再現燃焼実証前編

(4定点撮影-音声なし)

火災現場再現燃焼実証後編

(4定点撮影-音声なし)

【結果】
・待機電流状態の浴室関連機器コントロールボックス内基盤ソケットに昆虫の尿に見立てたアンモニア水溶液を注入したところトラッキング現象が発生し、それに伴い発煙が確認された。
・トラッキング現象による発煙後もボックス内ブレーカー及び外部分岐ブレーカーのいずれも動作せず、トラッキング現象による部分的な加熱と発煙も継続観察された。
・その後トラッキング現象を起こしているソケット部より発火。
・発火した火はボックス全体に広がり火災に発展。
・同ボックスは熱変形により天井ボード上に落下、延焼を続ける。
・同ボックスの延焼により敷梁側面はこの後も長時間加熱を受け、また基台合板パネルまん中に設置されている別の電源ボックスは配線を伝って延焼に及ぶ。
・その後2つ目のボックスも天井ボード上に落下し、2次的延焼火災の要因となる。
・基台合板パネル向かって左側は2次的延焼火災の影響を強く受け焼損度合いを増し一部が燃え落ち、敷梁側面は強い炭化が進む。
・燃え続ける2つのボックスの熱により天井ボード裏面の膨らみが確認される。
・自然鎮火後、水道水による消火の影響で天井ボード裏面の膨らみがさらに進み顕著になってくる。
・捜査機関の検証調書に則り、残燃物を取り除くと天井ボードで焼損の激しい部分の一部が落下、こぶし大の穴が開く。
・敷梁側面の強い炭化、基台合板パネルの残焼状況、天井ボードの一部強い炭化と脱落穴、そして延焼経路の過程が本件火災と限りなく酷似しており、その経緯になんら不整合な部分は見受けられない。

【考察】
 敷ばり側面(現場では北側)からの出火は先の実証により既に否定されることから、同所に強い炭化を及ぼすだけの熱源を持ち得る燃焼経路は上部基台に取り付けられているバスシステム関連機器からの出火しか有り得ず、その可能性を踏まえて今回の実証結果から延焼経路、焼損の状況、特に天井ボードの局所的炭化や穴は、焼け落ちたバスシステム関連機器や合板パネル等の木材による長時間燻るような加熱により発生しており、事件現場と酷似している状況からも渡邉証人が作成した火災報告書や証言は事実に反する内容と言わざるを得ない。
 尚、付記するに科捜研でも樹脂製電源ボックスを天井ボード材の上で燃焼させる実験を行っているが、これは電源ボックス単体の燃焼であり、本来であれば私どもが行ったように内部ブレーカー、基板、端子台といった樹脂や金属を伴う部品が存在する現場に則した条件下、敷梁が存在する状態で燃焼しない限り、実験としての結果の真価は得られないものと思慮される。
 

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