3-2 トラッキング
【争点】
裁判所は利用客のいない105号室の全ての電気機器は待機電力しか荷電されていない事から、そのような微弱な電力で電気火災は起きえないと事実認定をした。
我々は当初から焼けが著しく激しい105号室浴室関連機器からの出火の可能性を疑っていた。そしてniteが公表しているある資料を知ることになる。そこにはゴキブリや昆虫が電機機器に侵入し、昆虫そのものまたはその尿により火災が発生したという内容であった。
我々は105号室天井裏に設置されていた浴室関連機器、ウェルランド製エアブローコントロールボックスの同型機を用意して、昆虫の尿に見立てたアンモニア水溶液を同ボックス内に入れる実証を行いniteの発表している火災現象が事件現場でも起きる可能性があるのかを実証した。我々の予想は的中することになる。
Nite(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)が公表している資料
昆虫の尿による電気的発火の実証
【実証趣旨】
1、 待機電力しか消費していないバスシステム関連機器の基板ソケット部に昆虫の尿に見立てたアンモニア水溶液を垂らした状態でトラッキング現象発生するのか?
2、 基板ソケット部にアンモニア水溶液を垂らした状態でトラッキング現象が起こった場合、システム内蔵ブレーカー及び外部分岐ブレーカーは動作して電気回路を保護するのか?
【実験機材】
・ウェルランド製 エアブロー用コントロールボックス(型式 EC-9200L)
・日東工業製 安全ブレーカー(型式 CB32X) 定格20A
・YAZAKI製 1.6mm 2芯 VVFケーブル
・EC-9200Lブロワーモーター起動信号用2芯ケーブル
・ブロワー用モーターに見立てた扇風機1台(仮想負荷)
【人工昆虫尿】
・昆虫の尿成分に近い20%濃度のアンモニア水溶液
・塗布用スポイト
第1種電気工事士監修回路図
【実験の流れ】
1、 主配電盤の60A漏電遮断器から供給されている電源回路より電源供給を受け、そこに日東工業製安全ブレーカー(定格20A)を介してVVFケーブルを接続。VVFケーブルから電源供給を受けるウェルランド製エアブロー用コントロールボックス(型式 EC-9200L)の電源入力端子(端子番号R、S)に接続をする。
2、 ウェルランド製エアブロー用コントロールボックス(型式 EC-9200L)のブロワーモーター出力端子(端子番号U、V)に仮想負荷の扇風機を接続。
3、 ウェルランド製エアブロー用コントロールボックス(型式 EC-9200L)のブロワーON/OFFスイッチ端子(端子番号G、W)に仮想スイッチとして使用する2芯ケーブルを接続する。
4、 安全ブレーカー及びコントロールボックス内のブレーカーをともにオンにして、基板内にある緑色に発光するLEDの点灯を確認して待機電力状態であることを確認する。
5、 端子番号G、Wから伸びるケーブルの先端を短絡させ、ブロワースイッチのON、OFF状態の入力信号を基板に送る。
6、 端子番号G、Wから入力を受けた基板により、端子番号U、Vへの負荷電力がON、OFFされるかを基板上の赤色LEDの点灯、消灯及び仮想負荷で同端子番号から出力を受けている扇風機が動作するかを確認する。
7、 基板上のLEDの動作、ならびに仮想負荷として接続されている扇風機の動作をもって、同基板が通電状態であり、尚且つ正常に作動していることを確認する。
8、 正常に作動する基板ソケット部(基板への電源供給部)に昆虫の尿に見立てた20%濃度のアンモニア水溶液を数滴たらす。
ウェルランドコントロールボックス実証動画
【実験結果】
1、 昆虫の尿に見立てた約20%のアンモニア水溶液を基板ソケットに垂らしたところ発煙を伴うトラッキング現象が起こり、ソケットが触れない程加熱した。
2、 その際、ボックス内の15Aブレーカー及び外部20A分岐ブレーカー双方ともに動作しなかった。
【結論】
渡邉証人においてもボックス内への昆虫などの侵入による火災発生を否定していない。
さらにトラッキング現象をブレーカーだけでは防げない事にも言及している。
この実験によりボックス内に侵入した昆虫の尿によって、同ボックスがトラッキング現象を起こし、それを起因に火災に発生し得る可能性は否定できない。
またボックス内及び配電盤等の分岐ブレーカーでは同現象による火災を防げない。