3-1 短絡
【争点】
警察の実況見分及び消防による火災調査ともに初動捜査においては電気配線の短絡痕は見分されず、電気的な火災は当初否定されていた。
ところが電気工事業者が現場から引き上げた電気配線を警察が押収して調べたところ、複数箇所で短絡痕が発見された。
捜査機関はnite(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)にその鑑定を依頼。しかし1次痕であるのか、2次痕であるのかの判断は出来ないとの鑑定結果であった。
捜査機関はさらに科警研へも同様の鑑定を依頼。然しながらこちらでも1次痕であるのか、2次痕であるのかの判断は出来ないとの鑑定結果となった。
これをもって非現住建造物放火については不起訴処分となったと思われる。
ところが訴因変更後、検察側証人として出廷した電気工事士がブレーカーが正常に動作するから電気火災は起きえないと証言をした。なんと裁判所はこの証言を全て採用し、電気火災の発生を否定した。
我々はブレーカー製造会社である日東工業に出向き、ブレーカーの性能やJIS規格を元にした技術資料の提供も受けた。これによればブレーカーで短絡火災事故は防げないとされている。
つまり検察側証人として出廷した電気工事士は、ブレーカーの基本的な知識を有していないまま証言をしたことになり、これを打ち消すために弁護側が証人申請をした第1種電気工事士の採用を裁判所は認めなかった。
出鱈目な事実認定を実証をもって証明する。
電気ブレーカー動作特性曲線(JIS規格)
VVFケーブル短絡時における実証
【実証趣旨】
1、 VVF短絡時における分岐ブレーカーの動作確認。
2、 VVF短絡時における最大電流量の記録。
3、 同ブレーカーによる回路保護によって発火火災発生の是非。
【実験機材】
・日東工業製 安全ブレーカー(型式 CB32X) 定格20A
・YAZAKI製 1.6mm 2芯 VVFケーブル
・松下電工製 6.0W LED電球(定格消費電力6.0W、定格入力電流0.11A)(仮想負荷)
【電流測定器材】
・共立電気製 デジタルACクランプ電流計Model 2017(非接触式測定器)
【擬似可燃物】
・運営店舗天井裏から採取した埃
第1種電気工事士監修回路図
短絡実証使用電材
【実験に用いる電気回路】
1、 主配電盤の60A漏電遮断器から供給されている電源回路より電源供給を受け、そこに日東工業製安全ブレーカー(定格20A)を介してVVFケーブルを接続。VVFケーブルの先に負荷用のLED電球を接続。
2、 安全ブレーカーから負荷用LED電球の間にあるVVFケーブルにクランプ式電流計を取り付ける。
3、 安全ブレーカーをオンにして負荷用LED電球が点灯することにより通電状態であることを確認。定格0.11AのLED電球を負荷とした場合、クランプ式電気測定器において電流測定値は00.0Aと表示された。これは流れる電流量があまりに微弱な為測定器の最低測定能力を下回ったものと考えられ、非常に小さな負荷であると言える。
4、 擬似可燃物である天井裏から採取した埃の傍で、被覆が露出しているVVFケーブルの芯線同士をくっつけ短絡状態を作り出す。
5、 2度目の短絡時に火花が飛び散り、近くにあった埃に着火、徐々に燃え広がることが認められた。
6、 その後も何度か短絡状態を起こし、最大で82.3Aもの電流量を記録するがブレーカーは動作しない。
7、 さらに複数回短絡状態を起こした際にようやくブレーカーが作動し、電気回路を遮断した。
VVFケーブル短絡実証動画
【考察】
小越電気飯浜証言にある、漏電ブレーカーが漏電を感知すると0.1秒以内に動作するので電気回路は保護されているので電気的な火災は懲り得ない、との証言内容は事実に反する。
漏電ブレーカーの仕様はJIS規格で厳格に取りきめられており、地絡、短絡それぞれで規定があると同時に、分岐ブレーカーにはそもそも漏電遮断器としての機能が備わっていない。
飯浜証言は地絡の動作を説明しており、短絡の時も同様の動作をすると事実に反する証言に終始していた。また漏電遮断器の動作と分岐ブレーカーの動作も混同した証言を繰り返している。
【結論】
電気回路の短絡の場合、漏電遮断器及び分岐ブレーカーは直ちに電気回路を遮断し保護するわけではない。
各ブレーカーが短絡時に動作する規定はJIS規格に準じており、その規格内容においても短絡によるブレーカーの動作にはある程度の条件が揃った時に作動するものとされている。
つまりは漏電遮断器及び分岐ブレーカーが短絡による電気的な火災を全て防ぎきれるものではなく、トラッキング火災や漏電火災と認定された事例においても、その出火元の建物のほぼ全てに漏電遮断器や分岐ブレーカーが設置されている事実をもってしても明らかである。
このことは渡邉消防士証人も証言において言及している。